有料老人ホームの小さな願い
「代替医療はなぜ効くのか」という設問の立てかたそのものに疑問を感じませんか?代替医療を新種の「故障した部品の修理技術」だとおもいこんでいる読者に「効くとはどんなことか」をかんがえていただくために、あえてこのタイトルをつけたのですが、じつはこの設問の立てかたはまちがっています。
そうです。
医療において「効く」とは、「治癒系のスイッチが入る」ということとほぼ同義語でした。
だとすれば、代替医療であろうが現代医学であろうが、なんらかの治療がもたらす活性作用と患者のプラシーボ反応があいまって治癒系のスイッチが入ったとき、その状態のことを「効く」というのだとかんがえなければなりません。
A療法は効く。
B療法は効かない。
わたしたちはよく乱暴にそんな表現をしがちですが、そこでおこっていることはじつは、そう単純には断定できない、きわめて複雑な事態であることを知っておく必要があります。
効くといわれるA療法の受療者にも、よくしらべてみれば、きっと効かなかった人がいるはずです。
効かないはずのB療法でも、なぜか効いてしまった人がいるにちがいありません。
療法の評価は正確には、A療法はCさんがDという状態日管引にあるときに効き、B療法はEさんがFという状態にあるときに効かない、というべき筋合いのものなのです。
「効く」が複雑であることの理由のひとつは患者の個性にあります。
体質や気質など、一〇〇人いれば個体差が一〇〇とおりある人間の集団の、しかもそのときどきに体調や気分が変わっている構成員の全員におなじ結果をもたらす医薬など、もともとあるはずがないのです。
致命的な猛毒でさえ、その致死量は人によって大きく異なります。
そして、それ以上に異なるのが各人の治癒系の反応速度です。
「治りたくてうずうずして」いるような状態にある人と治癒系のレベルが極度に低下している人とでは、同一の治療にたいする反応がまったく異なったとしてもふしぎではありません。
「代替医療はなぜ効くのか」という設問は、じつは「人はいかに治るのか」という設問の裏がえしのひとつでしかありませんでした。
人が「治る」理由さえ理解できれば、無数にありうる「××療法はなぜ効くのか」という設問の大半に答えることができるはずなのです。
「治る」理由は「自発的治癒力」と「活性プラシーボ」という概念で説明することができました。
では、その概念を使って「××療法はなぜ効くのか」という設問の「大半」に答えることができたとして、「すべて」から「大半」を引いた残りの部分とはなんなのでしょうか?それが「活性プラシーボ」の「活性」の部分、つまりは個々の療法に固有の特徴のようなものです。
風邪をひいて、現代医学を利用して治ったばあいと中国医療を利用して治ったばあいをくらべてみましょう。
現代医学は風邪(かぜ症候群・感冒)を「上気道の感染」と定義しています。
上気道とは鼻腔・咽頭・喉頭の総称です。
そして原因をライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルスの感染だとかんがえます。
鼻汁・鼻閉・咽頭痛・嘆声・咳・疾などの呼吸器症状および、発熱・悪寒・頭痛・倦怠感・食欲不振などの全身症状の一部または全部の所見があり、他の疾患の所見が否定されれば、風邪と診断し、各種の薬剤が処方されます。
論理性・客観性・再現性を重視する現代医学の処方は各症状ごとに、個々の薬剤の作用機序にしたがっておこなわれるのがふつうです。
すなわち、炎症には消炎剤、うっ血にはうっ血除去剤、発熱には解熱剤、頭痛には鎮痛剤、呼吸困難には気管支拡張剤などです。
副作用で胃の障害がおこることが予測されるので、胃の薬も処方されます。
ペニシリンやピリン系薬剤にたいする特異反応を除けば、患者の体質や気質など、個人差が問題にされることはまずありません。
しかも、風邪は放置しておいても一週間ぐらいで自然に治癒することが多いので、現代医学の医師はごく初歩的な治療で対応できると気楽にかんがえているのがふつうです。
一方、中国医療では、風邪は万病のもとだとかんがえられ、医師も風邪症状の治療がうまくできれば一人前だといわれます。
発熱性の病気はたいがい風邪のような症状ではじまることが多いからです。
鍼灸や気功などで対応することもありますが、ここでは湯液(漢方薬)のばあいをみてみましょう。
中国医療には西洋医学のような病名がなく、「証」というものがあるだけです。
「証」はその人特有の生命エネルギー場(6章参照)の歪みの「しるし」であり、そのしるしに有効な湯液の名前がつけられます。
西洋医学で一律に風邪と診断される症状のなかにも、中国医療はたくさんの「証」をみつけ、「証」の変化におうじて臨機応変に対応していきます。
ふだん頑健な人が頭痛・肩こり・鼻閉・悪寒をおぼえ、そのあとで急に発熟し、まだ発汗がない段階ならば、それは「葛根湯の証」であり、葛根湯をのめば発汗して熱がさがり、症状の軽快が頻繁にみられます。
おなじ発熱・悪寒・発汗なしの状態でも、関節や筋肉が痛み、脈に力がある状態のときは麻黄湯が有効な「麻黄湯の証」と診断します。
ふだんから病弱で、風邪をひくとなかなか治りにくく、かといって悪化もしないという状態は「柴胡桂枝湯の証」であり、柴胡桂枝湯を長期間服用して体質を改善する必要があるとされています。
色が白く、水太りのような感じの体質で、肌理がこまかい人がひく夏風邪は「防巳黄膏湯の証」であり、防巳貴書湯を用いると特効がみられるばあいがあります。
「葛根湯の証」に似ていても葛根湯が効かず、熱がつづいて胸もとが苦しく、全身がだるく、吐き気があって食欲がなく、身のおきどころがないような状態のときは「葛根小柴胡湯の証」とみたて、葛根湯と小柴胡湯をあわせて服用します。
おなじ疲労感が激しくても、動博や息切れがして、顔色が悪く、寝汗をかき、いかにも疲労困燈している状態なら「柴胡桂枝乾姜湯の証」、悪寒と発熱が交互にあって、胃の症状があるか、胸が苦しく、微熱がとれず、食欲のない状態は「小栗胡湯の証」、似たような症状でも、みずおちが硬く、舌苔が黄色みを帯び、便秘がひどい状態なら「大柴胡湯の証」と診断します。
このように、風邪といわれるポピュラーな症状をもつ患者にたいする薬物療法だけにかぎってみても、現代医学と中国伝統医療では対応法がまったく異なっています。
表面にあらわれた個々の症状の抑圧を目的とする現代医学の「対症療法」と、症状の奥にかくれている生命エネルギー場の歪みの矯正を目的とする中国医療の「本治療法」(根本療法)とでは、治療戦略そのものに雲泥の差があるからです。
もっとも中国医療にも表面にあらわれた自覚的・他覚的症状を相手にする「標治療法」がないわけではありませんが、それはあくまでも副次的な手段であり、急場しのぎの方法だとかんがえられています。
医家に生まれて儒者となった荻生祖裸は、江戸時代にあった漢方医学の二大流派(後世方と古医方)について分析し、こんなことをいっています。
「下手医者の治療は、疾あれば疾の加減をし、熱あれば熱をさまし、(中略)理屈はきこえたるようなれども病は癒えぬなり。
暫く効あるに似たれども、またあとより再発し、(中略)終に死に至るなり。
上手の医者は、あきらかに病源をみて、様々の症あれば、病の根本、あるいは病気なりとみて病気を治し、あるいは虚なりとみて補えば、諸症一々に治するに及ばずして、おのずから癒ゆるなり」病気の根本に対処すれば、個々の症状をおさえつけなくても、自然に治るのだというわけですね。
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